前回は補助金、助成金の種類や趣旨について述べました。今回の主要テーマである「もの補助」の歴史的背景に付いても触れ、スキームの生い立ちや準拠法について解説いたしました。今回からは経験レベル別に、「真に事業者様のお役に立つ」解説を致します。初回は「初級支援者向けの心得とコツ」です。
初級支援者とは「もの補助」を初めて支援される方と、概ね採択1件以下か支援経験が3件以下と思って下さい。中にはロクに勉強もせず初回に採択されて、「もの補助はチョロい」と思われる方も居ます。大きな声では言えませんが審査員はピンキリなので、要件違反にも関わらず「間違って採択された」可能性もあります(後でトラブる)。やはり、何事も基本の習得が大事です。
Ⅰ.基本の習得(1)「公募要領はこの様に読め」
いかなる補助金支援の解説/指南/ガイドにも、必ず「公募要領の精読」が謳われていますね?しかし、何も意識せずにただ読み通すだけでは「フ~ン」で終わってしまい、基本の習得からは程遠いです。
初心者には特に読み方が重要で、H28補正を例にそのポイントをまとめます。
(1)公募要領の「与件」には必ず触れる
・診断士の方は2次試験を思い出して下さい、アプローチが似ています。
・公募要領は「与件」であり、当該類型に関する記載事項には漏れなく記述します。
・選択肢が多く該当しそうでも、一杯手を出さずに、選択と集中で充実させる。
(2)読む順序で効率的に
・「もの補助」で最初に読むのは、表紙と表紙裏です。期限や注意事項を頭に入れます。
・特に重要なのは「事業の目的」です。全キーワードを抽出し、申請書に表現します。
・次はP27「審査項目」です。それ以外の「留意点」「留意事項」も読み込みます。
・要件を満足し、必要十分な項目を申請書に反映させれば、採択に近づきます。
(3)選択類型に必須内容をマーキング
・金額が高い類型は難易度が上がります。どの類型を選ぶかは事業者様と良くご相談を。
・応募類型が決まったら、記述に漏れが起こらない様に、対象項目をマーキングする。
・スキーム要件で解らないことが有れば、遠慮せずに事務局に電話で問い合わせる。
(4)数字を意識する
・H28補正の公募要領P5では、補助上限額、補助率、5%以上の賃上げ、倍増、更に1.5倍・・・
注)H28補正の「補助上限の増額要件」の賃上げ等は、煩雑過ぎて廃止予定です。
・P6以降の留意事項は元々重要ですが、P8(5)⑦の数値を守らないとシステム上NGです。
・P20では上から5行目の、付加価値額年率3%、同経常利益1%、さらに9行目の「増大」
⇒数値はプログラムされているので、システム入力した時の要件違反は自動的にアウト!
(5)小さい文字ほど重要
・脚注は「注意事項」なので大事です。特にP55以降【様式2】内の脚注は完全準拠を。
・例えばP57下脚注の「経常利益に営業外収益含まず」「伸び率は直近期末基準」等。
・次頁(3)「過去の国の補助金」は空欄や見込み記述ないとアウトに(丸投げ露呈)。
Ⅱ.基本の習得(2)「準拠法他の要件知識」
初心者の場合余り多くを望めないと思われますので、ここでは最も重要な2点を解説します。
(1)革新的サービスの場合
・P27審査項目にもある「中小サービス事業者の生産性向上ガイドライン」+数値目標です。
・P33図中にある10類型で、診断士の誰もが知識を持つので、チェックを多く付けたがります。
・ポイントは中身で、ダントツ競争力の方策でないと通らないので、選択と集中で深く!
(2)ものづくり技術の場合
・「中小ものづくり高度化法」で、技術を知らずとも、P34の12類型をしっかり精読願います。
・記述方法は2次試験と同じ「おうむ返し」で、キーワード引用による要件達成を訴求します。
・ものづくりでは他に、第四次産業革命のIoT、AI、Robotに絡めれば、採択確立が上がります
注)P6の11行目注1.に有るように、「単独の機械の自動化(ロボット)・・・」はNGなので、
複合MC等の導入は明らかに第四次産業革命対象外となります、注意しましょう。
Ⅲ.審査員が読み易い「ストーリー」と、「図表」で説明する
審査員の立場で考えて下さい、真っ先に知りたいことは「どんな会社か」でしょう。何を作っているのかも判らないのに、冒頭から「当社の強みは・・・」では良い点がもらえません。加えて、各ページが文字で埋め尽くされておれば、ほとんど「パス」でしょう。小説本では無いのですから、どんなに素晴らしい文章であっても無意味で、評価に値しません。
どうすれば良いかと申しますと、「その1」の補助金による「補助事業」遂行に必要な内容と、「その2」の補助事業を利用して「事業化」する内容を、章立てしてストーリー化することです(ここで「補助事業」と「事業化」の意味を、正確に理解しておきましょう)。以下にストーリーの典型的な例を記します。
その1(補助事業)の章立て(例)
<8~10ページ位 新ビジネスモデル構築 ストーリーを立てる 図表を多く使う>
1)会社概要
・沿革、ビジョン、経営者の想い
・取扱い製品(写真等)、下請け、受注生産等
・強みとなる経営資源(キーワードを必ず)
2)事業の状況
・売上傾向、利益(グラフ等)、赤字要説明
・人材人員計画、賃上げ
3)市場規模とマーケットニーズの変化
・国内の業界動向、市場規模、国内から海外へのシフト
・マーケットニーズ(品質・価格・納期)への変化
4)経営課題
・販路開拓
・納期短縮:受注型での見込み生産
・自社ブランド品開発
・生産革新(×:コストダウン)
5)課題の解決法
・持っている強みと最新設備の相乗効果・・・
・競争力を確保できる強み
6)設備投資の内容
・導入する生産管理システム
・専用ソフトウェアの内容
7)予定する成果
・定量的に
8)補助事業遂行体制
・サプライヤ等外部関係者含め
9)スケジュール
・必ず月次チャートを
10)ものづくり基盤技術(類型)との関係
他、要件があれば追加:賃上げデータ、定量的な生産性向上、等々
その2(補助事業を活かした新事業立上げ)の章立て(例)
<3ページ以上、市場規模、プロモーション、補助事業売上利益計画、根拠等>
1)狙う市場(TPP?)
2)販路開拓(アジア新興国?)販売チャネル
3)販売促進法
4)具体的顧客
5)補助事業の売上利益計画・・・必須!
・顧客名と、単価X数量で売上根拠を。経営革新同様、粗利等利益も記載がベスト。
【コラム】「もの補助」審査員
「外部有識者」である審査員は、主に技術士と診断士と各経産局の役人の様です。私が審査員の時には、1件に付き1時間近く費やして、申請書を真剣に読み込んで評価しました。同時期に某先輩の言葉を小耳に挟みましたが、「1件10~15分で十分だ」と言われていた様に記憶しています。この様な審査員相手では、読みにくい申請書は必然的にスコアが下がります。また、評価自体の質は「税金が投入されている」との意識の他に、この様な審査倫理によるバラつきも解かり、驚きました。
2018 補助金太郎プロフェッショナル
こんにちは。ものづくり補助金採択の法則の第2回は「製品の紹介」がテーマです。
営業活動ではないのに製品紹介が取り上げられることに違和感を持たれた方もいらっしゃるかもしれませんが、実はとても重要なのです。
<なぜ「製品の紹介」が重要なのか>
第1回の法則でも申し上げましたが、採択の成否を分けるポイントは、審査員の方々が補助金という投資をする価値を見出だせるか否か、ということになります。つまり自社の持つ”価値”を分かりやすく審査員に伝える必要があるのです。これを為すために役立つのが、製品紹介です。
製品とは、お客様や社会のニーズに応えたり課題解決に貢献したりする為に、自社の強みを最大限発揮して作り出すものです。そして製品の価値がお客様に認められたとき、その対価としてお客様はお金を支払ってくださいます。つまり製品が売れるということは、独自の価値を提供できる会社であるということの証明であると言えます。
どんな製品なのか、なぜ売れているのか、どこが評価されているのか、製品紹介を通じてこうしたポイントを説明することが、自社の持つ強みや価値について審査員に納得してもらうのに役立つ強力な援護射撃になるのです。だから製品紹介が重要なのです。
<書き方のポイント>
それでは、より効果的な製品紹介をするには、どのような点に注意したら良いのでしょうか。ポイントは3つあります。①会社の強みと関連付けること、②競争優位性を示すこと、そして③写真を掲載することです。
①会社の強みとの関連付け
上でも述べたように、自社が持っている強みを裏付けてくれるものが製品であり、製品には自社の強みが何らかの形で活かされています。どのような強みが発揮されているのかが読み手に伝わるように書きましょう。
②競争優位性
お客様が製品を購入してくださるのは、当社だけの独自性や優位性を認めていらっしゃるからです。製品が持つ独自性や優位性はどのようなものがあるでしょうか。具体的に述べましょう。
③写真
百聞は一見にしかず、いくら丁寧で分かりやすい説明文を書いても、目で見て得られる以上の情報を得てもらうことは難しいでしょう。①や②で述べたポイントが伝わるような製品の写真を載せ、説明に説得力をもたせましょう。
<事例研究>
以上を踏まえ、採択成功事例と採択失敗事例を比較しながら、どのような書き方が良かったのか、逆に何が良くなかったのかを検討していきましょう。(ここでは写真は省略します)
■成功事例(A社)
「○○社向けの●●に使用する▲▲部品です。非常に高い精度(X~Xμm)が要求されると同時に、YY度という高温域での長期連続使用に耐える耐久性が求められます。他社には発注できない部品として、○○社から高い評価を頂いています。」
■失敗事例(B社)
「○○社に納入している▲▲部品で、精密加工を施してあります。寸法公差はXXμm以内です。顧客からは好評を得ています。」
どちらも製品を紹介していますが、どちらの説明に説得力があるかは、明らかではないでしょうか。上で挙げたポイントについて整理してみましょう。
■その1.会社の強みが活かされている
・A社は高精度であることと高耐久性があることを紹介しています。単に精度が高いだけでなく、耐久性についても併記されており、強みがしっかり発揮された製品であることが読み取れます。
・B社も高い加工精度はアピールしています。しかしながら、工作機械の進化が進んでいる今日、高精度加工は必ずしも高いハードルではありません。これに留まらない強みについても言及されていたらより説得的な製品紹介となっていたでしょう。
■その2.競争優位性
・A社は、その1でも述べましたが得意なことを2つ紹介しており、それらがかけ合わさることで独自の強みを有していることが伝わってきます。また取引先からの具体的な評価も書き添えることで、さらにその説得力を増しています。
・一方、B社は独自性や競争優位性について言及しておらず、果たしてその技術が特別なものなのか、疑念を抱かれかねない記載内容になっています。取引先に何が評価されているのかも伝わってきません。
<まとめ>
いかがでしたか。製品紹介は自社の強みをアピールする格好のチャンスであるにも関わらず、ちょっとした書き方の違いで、説得力の度合いがここまで変わってしまうのです。
そんな素敵な製品を作っているなんて、ぜひ出資したい、いっそ発注したい、と審査員を虜にするような製品紹介を心がけてみて下さい。自社製品をどのように売り込んでいるか、またどのような点がお客様から好評を頂いているか、普段お客様と直接接している営業スタッフに聞いてみるのも良いかもしれません。
最後までお読み下さりありがとうございました。次は第3回となります。楽しみにお待ち下さい。